Itty Bitty ちいさなこいぬのものがたり

 "Itty Bitty"の表紙には、しあわせそうな小犬が一匹。ページをめくると、この主人公をめぐる小さなしあわせが、ほっこりと描かれていきます。
 「小さな小さな」……を意味するイティ・ビティという名の小犬はその名のとおり、おやゆび姫ぐらいの大きさです。この小さな存在から、子どもはすでに絵本の中へ入り込んでしまいます。まるで、自分のマスコット人形が動き出しているような感覚を持ちながら。でも、子どもだけではありません。大人も引き込まれる魅力は、イティ・ビティの日常性に宿ります。まるで人間が家作りをするように、イティ・ビティもお買い物に出かけ、あれこれと思いを巡らせるのですから。
 という訳で、イティ・ビティは、くるみの殻でできた愛車に乗ってお買い物に出かけました。大きなホネをくりぬいて作った部屋はまだがらんどうです。誰もが自分だけの居場所を夢見るように、イティ・ビティもすてきなお部屋を作りたかったのです。花柄のソファが25セント、水玉の電気スタンドが5セントの中、なぜかミニチュア名作本は2冊で1ドルと高めです。書籍に絶対的価値を置いているのでしょうね、なんて。
 しあわせのキーワードは何なのでしょう。うれしそうなイティ・ビティを眺めながら、答えは「ささやかなもの」に帰するのだと迷わず結論づけました。何気ない日々の暮らしにしあわせが宿ることを、小さな存在がみごとに伝えています。
 この何の変哲もない物語がなぜこれほどまでに特別になりうるのか。もう一度ページをめくって確かめようとすると、「今度はひとりで読みたいな」と娘がすでに手を伸ばしていました。これこそがきっと、しあわせの伝導でしょう。小さくて、何気なくて、自然な、何かです。絵本もちょうど大人の両手サイズで、そんな存在がハッピーの素であると、イティ・ビティがこっそり教えてくれました。
 ステンシル技法を駆使した明るくさわやかな絵が、すでにうれしそうに笑っています。ところどころ、イティ・ビティのつぶやきが吹き出しに表れて、このかわいらしさもしあわせ相乗効果に一役買っています。
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Itty Bitty

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