Lincoln Tells a Joke: How Laughter Saved the President (and the Country) リンカーン大統領はジョーク好き

  まじめ顔の伝記絵本が多い中で、"Lincoln Tells a Joke: How Laughter Saved the President (and the Country)"はウィットに富み、イラストもアーティスティックときているので、かなり異色かもしれない。
 ところで、初めて絵を見たときにふわっと記憶の底からよみがえった絵本があった。かれこれ10年近く昔に出た、音楽家や音楽ジャンルをABCで紹介する絵本"M Is for Music"がそれ。そして次の瞬間、自分の直感に感心することになる。絵本はまさにその画家による絵で、おまけに作家のほうも同一ときていた。へえ〜。
 閑話休題
 本書を楽しむにはひととおり、奴隷解放を高らかに宣言したリンカーン大統領の生涯を知っていたほうがいいかもしれない。中西部の貧しい開拓者の家に生まれたエイブラハムは、生粋の本好きだった。子どもの頃からずっと慣れ親しんだ「言葉」とのかかわりが後に、言葉の妙味を操るおおらかな人間性を培ったようだ。ユーモアこそ極上の文化であり、笑いはその原点にあって人々の幸せを保証する。深く言葉に通じているからこそ愉快な遊びが生まれ得るのであり、まわりの人々は瞬く間に心が解きほぐされる。この指摘はリンカーンに近い人々がすでにささやいていた。演説の巧さもこんな言葉と真摯な関係を持つ背景から生まれてきたのだろう。
 立ちはだかる困難に遭遇してもジョークで道を切り開いていった明るさは、絵の中にも現れていてかなり魅力的だ。厚塗りの中間色が人間の機微を表しているようで、見れば見るほどその奥が読みたくなる。背丈のあったリンカーンの笑う姿というのが、何か意外性に包まれていて、嬉しくもあり、哀しくもあり……。愛息を失った後、笑いを取り戻すまでにかなりの時間を経たというが、だからこそ深みを増した笑いであったに違いない。
 かなりおすすめしたい伝記絵本。
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Lincoln Tells a Joke: How Laughter Saved the President (and the Country)

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