All Star!: Honus Wagner and the Most Famous Baseball Card Ever ホーナス・ワーグナーの魅力に迫る

 2007年の時価が、約2億8000万円――。もっとも高価なベースボール・カードとは聞いていたけれど、そのゼロの数を数えてまさに絶句。たった1枚のカードに付いた値段でわたしにとりホーナス・ワーグナーの印象はずっと、「ベースボール・カードの人」だった。
 でも、このほどイラストの美しい"All Star!: Honus Wagner and the Most Famous Baseball Card Ever"を読んでみて、彼がベーブ・ルースタイ・カッブと名を連ねるほどの名選手だったことを知る。野球殿堂投票の初年となる1936年、タイ・カッブに次ぎ、ベーブ・ルースと並んで2位に入ったというのだから、「球聖」や「野球の神様」と言った往年のスーパースターたちに並ぶ最高級の名選手だったのだ。
 ワーグナーは1897年、ルイーズヴィル・コロネルズからメジャーデビューした。1900年から17年間、ピッツバーグ・パイレーツの遊撃手として首位打者8回、盗塁王5回、長打率リーグ首位を6回記録。数字の示すとおり、打って走ってパワーも兼ね備えたオールラウンド・プレイヤーだった。
 さて絵本のほうだけれども、こちらは幼少期からの生い立ちからメジャーで名手として名を馳せるまでの流れを、詩文的に物語のように表現していく。それが重厚で味わい深いイラストと連なってセピア色の郷愁に誘うのである。
 ドイツ系移民の家庭に育ったハンスは少年期から父や兄とともにピッツバーグの炭鉱で働き、頑丈な体を鍛えていった。子ども思いで、家族思い。人間としても温厚な人柄は現役引退後39年間、パイレーツでコーチとして後進の指導にあたったことにも表れているだろう。このあたりは、性格が悪く野蛮なふるまいで知られたカッブやルースとは一線を画していると言えそうだ。
 冒頭のベースボール・カードはT206と呼ばれているが、市販タバコの箱に入っていたおまけのカードだったことから、「子どもにとってよくない」とワーグナーはタバコ会社に抗議したと言う。そこでカード生産は打ち切られ、結果として発行部数の少ない稀代のカードになったらしい。
 ワーグナーの人となりが濃厚に味わえる一冊だった。
amazon:Jane Yolen
amazon:James Burke

All Star!: Honus Wagner and the Most Famous Baseball Card Ever

All Star!: Honus Wagner and the Most Famous Baseball Card Ever