I'm the Best カラフル! カズンズ・ワールド

 水を含んだ筆と紙の呼吸が伝わってくるような色。ぽたりと落とした水滴や、すうっと引いた線の表情に吸い込まれ、しばし時を忘れて表紙の顔を眺めていた。カラー部分だけ光沢がかった印刷もきれい。ツルツルした表面を指でなぞりながら、みずみずしい感触のイラストに、ほっと慰められていた。
 もし翻訳絵本が出たとしても、カズンズの"I'm the Best"は原書で手にするのがよい。文字の戯れぐあいと遊び心に満ちた水彩の心地よさに浸るだけでも、絵本を手にした甲斐があるというものだ。
 ストーリーはシンプルで、いわば、「自他」という人生の原点を描いていた。何ごとも「わたしが一番」を持って済まされる個人主義の国、米国に住んでいると、このワンちゃんの有頂天な笑顔は日常茶飯事に見えてくる。走るのも、穴掘りも、体の大きさも、水泳も、何でも「ボクがいちばん」! ウレシイ、ウレシイ! 
 最後には他人を受け入れて自分もしあわせになる――。絵本はこのシナリオ通りに展開されるのだけれど、現実には非情なるかな、このケースが必ずしも万人には当てはまらない。よって事実との対比に、勝手に理解しているだけと前置きして、人間の哀しさがやんわりと暗示されていると思った。
 小さな子どもたちに読んで笑顔を楽しむのもよし。大人が読んで思考を巡らせてみるのもよし。でも、まずは何より、カラフルな色を満喫したい。そうそう、ワンちゃんのカラフルパンツから、ゾウのエルマーを想起していたよ。
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