Insect Detective みどりのしげみで

 見るからに夏の香りに包まれた表紙を目にして、例のネイチャー・シリーズなのかなと思ったけれど、そうではなかった。"Insect Detective"は、シャーロッテ・ヴォークがいとこのスティーブといっしょに制作した、昆虫の世界を紹介するノンフィクション絵本である。
 ヴォークの流れるような描線がサラサラと、しげみや木立、地中の様子を描き上げていて、いつもの心地よさを感じていた。緑に囲まれた昆虫たちの生命力が、明るい夏をそのまま投影しているかのよう。絵本をめくる手の中に、安らぎを宿す感覚を味わう。彼女の絵本に多い、くすんだクリームの地色とペン書きのようなフォントも、そんな感触を生むのだろう。
 よって、ノンフィクション絵本といっても、こちらは写真入りで解説が付く科学絵本や図鑑のような本格的なものではない。身近に生息する虫の姿をわかりやすく子どもたちに紹介する、作者自身の個人的な虫たちとの関わりを記した「自然観察記」のような体裁だ。
 「虫」ということで先日体験したエピソードを記しておこう。金曜日の午後のこと、仕事場で。ふと気が付くとオレンジがかった黄色いてんとう虫がわたしの右手の甲に停まっていた。かわいい。気にせずそのままふるまっていたら、数時間経っても、まだわたしの右腕にまとわり付いていた。小さな姿を目撃したふたりから「てんとう虫、飼ってるんですか」と冗談まじりで聞かれたりして、えへへと笑って返す。ちょうどお弁当にキュウリのうす切りを持ってきていたので、半分にちぎって、てんとう虫を乗せてあげた。うれしいでしょ。むずむず動きながら、キュウリの汁を吸っていたのだろうか。そのうち、逆さまにキュウリにくっついたまま動かなくなった。突然の食べ過ぎが原因で死んでしまったのかとも思えたけれど、じっと観察し続けるわけにもいかないので、仕事に集中。で、忘れかけていた何時間か後、再び動き始めたのを見て、一休みしていたのだとほっとした。駐車場に向かう途中に出会った若い女の子ふたりから「てんとう虫はラッキーなのよ」と言われ、ほんのりラッキーな気持ちを味わう。キュウリとてんとう虫を抱えて家に戻り、ひんやりした夜の庭に放してあげた。娘に話したら、すごく喜んでくれた。
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Insect Detective

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