Azad's Camel らくだレースの少年

 なんて魅力的な描線なんだろう。"Azad's Camel"の表紙を見て、これはちょっとスペシャルな画家の絵だと感じた。イラストばかりではない、ストーリーも非常に興味深い。社会的な問題作である。
 中東アラブ諸国でさかんならくだレースでは伝統的に少年たちが騎手となり、危険なレースに挑んでいた。現在、幼少期の男の子の人身売買は禁止され、代わりにロボット(!)が騎手になっているそうなのだが、絵本は孤児アザッドが騎手養成のために売られ、過酷なトレーニングを受けながらも困難を乗り越えていく様子を描く。
 扱われる背景が深刻なので暗い展開を想像してしまうが、少年アザッドをはじめ登場人物の笑顔がさわやかなことと、砂漠の自然が果てしなく伸びやかで、そんなところで救われる。でももちろん、虐待を受けたり、怪我を負った少年たちの心の叫びはいたるところに響いているのだけれど。
 アザッドはらくだのアスファと友だちになり、けっこう明るく逃亡を試みて、最後はハッピーエンド。アラブ文化の一面を知る貴重な作品だった。
 英国の絵本なので作者はイギリス人かと思いきや、ブタペスト出身で幼少期は鉄のカーテンに囲まれて育ったという。躍動感のある描写がすごく魅力的。これから注目したい。
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Azad's Camel

Azad's Camel