Shadow ……やはり予想どおりの傑作

 サイズといい、二色使いの構成といい、スージー・リーの最新作"Shadow"を見て即座に"Wave"(『なみ (講談社の翻訳絵本)』)を想起した。手にしてみて、それは大正解。こちらも文字なしで、シンプルな題材を用い、愉快なイマジネーションの世界を繰り広げている。
 横長に開く前作と異なり、こちらは縦開き。真っ暗な見返しに「Click!(かちっ!)」と電灯をつける小さな音が響いて、さあ、はじまり、はじまり。ページをめくると、小さな女の子が地下室……あるいはガレージ、屋根裏部屋?……にひとり。そこにはダンボール箱が2つ、掃除機やほうき、はたきなどの清掃用具、はしごにホース、金づちやのこぎり、天井には自転車が吊り下げされている。そういうものが床に影を落とすと、女の子にはゾウだったり、ヘビだったり、ワニだったり、生き物に見え、そこにふわりとジャングルが現れて、空想の世界がどんどん広がってゆく。
 イマジネーションを描く絵本は星の数ほどあるけれど――というより絵本のほとんどはそれがテーマなのだけれど――イマジネーションの意味をこれほど巧みに、ストレートに表現できる作家・画家はそう多くはいない。ブラシ絵で明かりの黄色を着色し、あとはモノトーンの黒のみで表したジャングルには躍動感が満ちている。上のページが女の子の佇む現実の時空で、下のページが黄色と黒で表されたイマジネーションのジャングルだ。登場する影たちと無言劇が繰り広げられて、いったい何が起こっているのだろうと、見ているほうもどんどん思考を巡らせている。そして最後は、お決まりの「ごはんよ〜!」の声。電灯を消すと部屋はまた真っ暗闇に戻るのだけれど、うふふ、実は影たちがどこかで遊んでいたりするのだ。裏表紙からページをめくり始めても、物語が広がっていくのではないかと思えた。
 すごいよ、すごい。スージー・リーの世界にまたどっぷり引き込まれていた。女の子の描線など、ちょっとエミリー・グラヴェットと同じ風に見えたりもする。仕掛けなどの遊びを使わず展開する分、リーのほうが純粋にアート志向といえるかもしれない。それにしても、すばらしい絵本に出会えて感謝感激だった。もう一冊、中学年向きの"Mirror"も楽しみ。
Wave ぜったいに、この夏の宝物絵本!「なみ」 - 絵本手帖

Shadow

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