Busing Brewster 人種融合を目指したバス通学の背景

 "Busing Brewster (NY Times Best Illustrated Children's Books)"は、70年代に起きていた米国の苦悩を明るく描く。1954年に人種隔離政策が撤廃されても、居住区域がすでに別々だったことから子どもたちの通う学校は黒人、白人に分かれたままの状態が続いていた。70年代に入り、校内の人種の割合を均等化したい要望が政府に受諾され、黒人地区から白人の学校へ、白人地区から黒人の学校へのバス通学が許可された。絵本はそんな歴史的背景をふたりの黒人少年(ブリュースターとブライアン)のやりとりを通して描く。彼らは黒人ばかりのフランクリン小学校から、白人地区のセントラル小学校にバス通学する。
 ちょうど娘がシアトル学校区を舞台にした歴史フィクションを読もうとしていたところだった。このストーリーでも、アジア人が白人の学校に通うという同じような歴史的背景が描かれる。実在の小学校名が出てくるものだから、わたしはけっこう神妙に当時の空気を感じ取ろうとしていた。さまざまな文化、民族の入り混じるシアトルなので今から思うと遠い歴史としか認識できないのだが、実際、異文化間コミュニケーションの実現はごく最近に始まったばかりなのだろう。その歴史の流れがあり今、わたしは生きている。
 話題を絵本に戻そう。作品は米国の重い歴史をユーモアを交えて描写する。しかしながら、興味深い事実を題材にした視点は評価したいけれど、ストーリーの展開が少々わかりにくい。主人公ブリュースターの語りにブライアンの会話が加わるのだが、入れ代わり立ち代わり異なる少年たちが登場して、誰が話者なのか混乱させられる場面がたびたびあった。コラージュを駆使したイラストが美的感覚に優れ魅力的なだけに残念だ。
 作者は本作を2003年に創作していたという。作中、ブリュースターのお母さんが大統領になれたらいいと話すくだりがあり、この部分に関して、まさか自分の存命中に史上初の黒人大統領が誕生し、絵本の記述が現実のものとなるとは夢にも思っていなかったそうだ。
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Busing Brewster (NY Times Best Illustrated Children's Books)

Busing Brewster (NY Times Best Illustrated Children's Books)