Sun, Moon, Star お日さま、お月さま、お星さま

 "Sun Moon Star"(邦訳『お日さま お月さま お星さま』)は、不思議な降誕絵本だった。まず絵本誕生の背景が特異だ。ニューヨークで編集コンサルタントをするフランク・プラットがグラフィック・デザイナーのアイヴァン・チャマイエフに絵を描かせ、これをカート・ヴォネガットに見せて文を担当させたと言う。つまり、絵が先にあり、次に言葉が紡がれた。ジャケット・フラップに書かれた一文はこの試みを「メロディが先にできていた歌」と表現している。視覚として登場するのはタイトルのとおり、太陽、月、星のみ。左ページに黒、右ページに三原色中心の配色が施される中、三つの天体が象徴的にストーリーの役者として動き出すのである。
 それにしても色と形が存在するのみの抽象アートを見て、ヴォネガットはどうやって降誕テーマを思いついたのか。「子どものための絵本」というイメージから、クリスマスを選んだのだろうか。しかしながら、彼の選択は正解だった。ストーリーは天と地の創造主(救い主)の目を通して描かれるので非常に斬新であり、他の聖夜物語に類を見ない。
 一口に「救い主の目を通して描く」と言っても、それは誰にもわからない感覚だ。だからこそ読者の感性は大きく揺さぶられ、生まれたばかりのみどり児を前に、過去の経験をひも解きながら想像してみるしかない。みどり児は目を開き、目を閉じ、眠り、夢を見て、再び目を開く。「音」よりも主に「視覚に感じられる色や形」が注視される理由は、冒頭に目の解剖図が紹介されていることもあるだろう。その結果、本作品が非常にユニークなものに仕上がったことは否めない。
 お星さまはヨセフ、お日さまはマリア、お月さまはふたりのお手伝いをする女性という設定で、異色の絵本が世に現れた。初版は1980年。ヴォネガットの最初で最後の絵本は、米国では絶版である。図書館以外ではなかなかお目にかかれないので、日本語の新刊で読めることは特権だと思う。
 英語版の書影が不鮮明ゆえに、書影は邦訳版。
amazon:Ivan Chermayeff
amazon:Kurt Vonnegut

お日さま お月さま お星さま

お日さま お月さま お星さま