Ballet for Martha マーサ・グラハム、アーロン・コープランド、イサム・ノグチによる「アパラチアの春」

 新しいものを創造するとは、どういうことか。加齢に伴い古典に傾倒している自分にとり、「俗」に宿る新しい無限性の追求は、とりあえず時間の無駄のように思えていた。「雅」はやはり古典に存在する。古典あってこその「俗」であり、研ぎ澄まされた文化の始点はつねに「雅」だ。ところがある時点で「雅」に行き詰まり、その閉塞感が沸点に達したとき、ベクトルは「俗」に赴く。そうして無限の可能性を追求するうちに、今までになかった新しい世界が見えてくる。
 アメリカ開拓民の心を主題に置くバレエ「アパラチアの春」は、モダン・ダンス創始者の一人マーサ・グラハムが気鋭の作曲家アーロン・コープランドに作曲、日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチに舞台美術を依頼したコラボレーションである。舞踏も、曲想も、舞台も、ヨーロッパのバレエではない、アメリカのバレエを目指した作品で、北米の広大な大地をイメージした素朴さと力強さを兼ね備える。
 1944年10月30日の初演は、喝采のうちに幕を閉じた。制作者の顔ぶれとその心を知ると、それはまさにアメリカの創作だ。絵本"Ballet for Martha: Making Appalachian Spring (Orbis Pictus Award for Outstanding Nonfiction for Children (Awards))"は、そんな背景を史実に沿って紹介する。
 コープランドの「アパラチアの春」については、シェイカー教徒の音楽として知られる「シンプル・ギフト」の調べが印象に残っているだけだった。単に「こどもせいか」にあったこの「踊〜れ輪になって、リードする主とともに……」の聖歌が大好きだったからというのが理由にすぎない。しかし三者には三者の人生があり、このアメリカで彼らがどのようにして創造の可能性を追求したかの軌跡を知ると、たまらない感動がこみ上げてくる。
 出会えてよかった絵本。絵は、あの船の絵本の人だった。あの絵本、すごくよかった。本作も臨場感、躍動感にあふれる。
Lightship 灯台船 - 絵本手帖

Ballet for Martha: Making Appalachian Spring (Orbis Pictus Award for Outstanding Nonfiction for Children (Awards))

Ballet for Martha: Making Appalachian Spring (Orbis Pictus Award for Outstanding Nonfiction for Children (Awards))

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