The Rooster Prince of Breslov ユダヤ民話を読んで

 民話は日々の生き方に知恵を与えてくれるので、けっこう好き。ユダヤ文化に伝わる"The Rooster Prince of Breslov"を読んで、賢い生き方について考えた。
 ブレスロヴの王子は、暖衣飽食の日々を過ごしていた。ほんのひとかけらパンをかじりたいだけなのに蜂蜜のしたたるケーキが与えられ、ほしぶどうが一粒欲しいとつぶやけば銀食器に山盛りの砂糖漬けプラムが出てきた。何か欲しそうな顔をするだけで、王子の前にはいつも望む以上のものが現れた。そんなある日のお昼時、食べたくもない豪華なごちそうを目の前にして、王子は「もうたくさん!」。そう叫んだかと思うと服をすべて脱ぎ捨てて、腰をかがませオンドリのように鳴き始めた。「ブーック、ブック、ブック、コケコッコー!」――。これを見た王さまとお后さまは大慌て。医者や魔術師を呼んで対策を練ったけれど、王子のオンドリ化は誰にも止められなかった。そこに現れたのが、一人の老人である。7日間の日数を与えてもらえれば、王子をもとに戻せると言うのである。
 老人は王子と同じように服を脱ぎ捨てて、自らもオンドリになった。床で寝たり、わずかなえさを口にしたり、寒さをしのいだり、二人はともに困難を体験する。「教師は生徒と同じレベルに自らを置く」というユダヤの教えは、このお話の教訓らしい。これがユダヤ式教育の原点なのだろうとちょっと納得。
 老人と暮らすことで思いやりの心を育み、善行を学んだ王子は最後に良き指導者に成長するのだが、作者はあとがきでどんな特権階級に住む者でも人はみな、王子のような成長過程を経るべきだと説く。
 この民話を語った彼女の祖母は、一世紀前に東欧の貧しい村から米国に移住した。物にあふれる米国を見て、物の豊かさの副産物として精神と心が養われるのではなく、人間同士の交わりと自分たちの伝統を踏襲してこそ精神と心が養われると伝えたそうだ。人はとかく上流階級の特権(資産、教育レベル)を豊かな人間性の理由にしたがる。でも、100年前に北米大陸にわたったおばあちゃんの言葉に耳を傾けると、それはまったくの見当違いで、豊かな人間性は自分自身が養うものなのだと教えてもらえる。おばあちゃんの心眼に敬意を表したい。
 イラストがとてつもなくユニーク。ユダヤ人を師と仰いだロシア出身の画家による絵だった。

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The Rooster Prince of Breslov

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