Walden Then and Now: An Alphabetical Tour of Henry Thoreau's Pond ヘンリー・ソローの生きた森

 渡米したばかりの頃、地元新聞に掲載される'Then & Now'コラムを毎週楽しみにしていた。市内の一か所を取り上げ、当時の写真と同じ位置から撮影した現在の写真を掲載し、歴史家が街の変遷について語るといった内容だった。昔の写真は50年ぐらい前のものだったり、100年以上前のものだったりさまざまだが、現在と比べることでこの街に流れた時間をほんの一瞬でも感じることができたと思う。その場所を実際に訪れたときなど、「ここだ!」と当時のイメージを膨らませたりした。これが京都のような古都だったら、また感じ方も異なるだろう。シアトルは、わずか150年の間に自然破壊を繰り返し、現在のように発展した。これを正と見るか、負と見るか、過ぎる想いは複雑だ。
 "Walden Then & Now: An Alphabetical Tour of Henry Thoreau's Pond"は、米国における環境保護運動の先駆者ヘンリー・ソローが暮らした森ウォールデンの様子を、当時と現在を比較して紹介するアルファベット木版画集である。森に小屋を建て自給自足で暮らしたソローの息づかいが伝わるかと思えば、当時から想像もつかなかったであろう現在のわれわれの暮らしぶりが浮き彫りになる。昔と今を同時に俯瞰できる、おもしろい試みだ。
 体裁も内容も、思慮深さに包まれる。青みがかった緑色の布装丁が、深い森の空気を伝える。黒い木版挿画が、上品な知性をかもす。各ページに大きく印刷されたアルファベットの文字が、それらの美観と深遠な均衡を保ち、われわれの思考を「自然」に赴かせてくれる。
 静謐な時間を提唱する絵本は、自然を愛する人、ソローの生き方を敬愛する人への、最高のクリスマス・プレゼントになるだろう。静かな聖夜にこの版画集を開き、ソローの生きた時代を夢想したい。

Walden Then & Now: An Alphabetical Tour of Henry Thoreau's Pond

Walden Then & Now: An Alphabetical Tour of Henry Thoreau's Pond

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