Ruth and the Green Book グリーン・ブックを携えて

 "Ruth and the Green Book"を読み、「グリーン・ブック」の存在を初めて知った。グリーン・ブックの初版は1936年。奴隷解放宣言がなされた後も、南部州を中心に黒人への差別が続いていた当時、ニューヨーク市に住むビクター・グリーンがアフリカ系米国人にサービス提供する市内のホテル、レストラン、ガソリンスタンド、小売店を紹介するコミュニティ冊子を発行した。1冊25セント。アフリカ系米国人の経営する商店やエッソ・ガソリンスタンドで販売され、絶大な支持を受けて需要に応えた。その後1949年には全米を網羅するまでに至り、ページ数は80ページ、価格は75セントで販売された。
 絵本はそのような背景を持つ1950年代、シカゴからアラバマ州のおばあちゃん宅まで車で旅する家族の様子を描く。自家用車を所有していたのでかなり裕福な黒人一家なのだが、道中には黒人であるがゆえに困難が待ち受けている。レストランが使えないので旅の食事は戸外ピクニック、ホテルが使えないので夜は車中で就寝。トイレは周辺の草原で済ませるが、一番困ったことはサービスを提供してくれるガソリンスタンドがないことだ。そんなときテネシーに住む友人がグリーン・ブックの存在を教えてくれた。旅はグリーン・ブックのおかげでうれしい出会いの連続となる。
 キング牧師の指導で公民権運動が結実した1964年、南部州のジム・クロウ法が撤廃されたのと同じ年に、グリーン・ブックは最後の発刊を終え、28年に渡る黒人コミュニティー支援の歴史を閉じた。
 「グリーン・ブック」は絵本よりも先に、作者が脚本を書いた演劇として世に出た作品。米国の汚点であるこの時代を一家の苦難を通して明るく描き、さわやかな読後感が残った。少女ルースの語りは、子どもの心に共感を呼び起こすだろう。写実にぼかしを入れ、50年代を克明に伝えるイラストが迫力だ。まるで当時の、陽光に色褪せたカラー写真を見ているかのようで時代の香りがそのままする。
 特記すべきは、エッソ(スタンダード・オイル・カンパニー)の存在だろう。唯一、アフリカ系米国人にサービスを施し、グリーン・ブックの著者に事務所も提供していたという。誇るべき社史だと思う。
Marching for Freedom: Walk Together, Children, and Don't You Grow Weary 投票権法撤廃への道 - 絵本手帖

Ruth and the Green Book

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