Me and You アンソニー・ブラウンの3びきのくま

 "Me and You"を読み、久しぶりに「アンソニー・ブラウンの絵本」にお目にかかれた気がした。家族愛を描く傑作としては、『すきですゴリラ (あかねせかいの本 (12))』以来と断言してしまいたいぐらい。それこそ、英国の絵本の魅力がぎゅうぎゅうと詰った秀作だ。
 背景には、お馴染みのおとぎ話「3びきのくま」が敷かれている。となれば、絵本好きは、そこからすでに高揚しているに違いない。でも、作者のことなのでもちろんひねりがあるわけで、実際その一連の流れがすばらしく、まるで映画のように感動を呼び覚ましてくれるのである。舞台は森ではなくて街、しかも時代設定は現代。作者は、遠い昔の語りものを、ぐっと身近なストーリーとして焼き直した。
 くまとうさん、くまかあさん、くまぼうやは、今に生きる家族をみごとに映し出している。生活環境からも、会話の内容からも、彼らのライフスタイルは現代の価値観を巧みに投影する。そして、絵本にはもうひとつ、金髪の女の子ゴールディロックスのストーリーも同時に流れているのだった。
 そこには街中のアパートに母親と暮らす、さびしげな少女がひとり。彼女の日々の楽しみって、いったい何なのだろう。ジーンズにフーディ姿のこの女の子を目にすると、そんな風に想わずにはいられない。空虚に暮らしているんじゃないかと気をもませるほど、彼女をとりまく風景は荒涼としている。くま一家の暮らしぶりとは、対照的だ。こうして、モノクロの左ページにはコマ割り構成で、ぽつんと沈んだゴールディロックス、明るく着色された右ページには満たされたくま一家の様子が描かれ、物語は展開される。
 ゴールディロックスは、森の中で突如としてくまたちの家に入り込んだあの女の子の自由奔放さなど持ち合わせていない。逆に、内向的で自信のなさそうな個として描かれる。でも、そんな彼女が3びきのくまの家を訪れ、お決まりのようにおかゆを食べて、椅子やベッドで戯れるうちに……。彼女の心象は、モノトーンのページに色が灯され始めるところから見えてくる。くまたちの家に足を踏み入れ、おかゆを口にして、温かな家の中で過ごすうちに、心が満たされていく光景はこの絵本の「ハート」でもある。誰もが知っているストーリー展開を、これほど惹きつけて締めることが可能とは、作者の業に敬意を表するしかなかった。2つのストーリーが同時に展開される現代のおとぎ話を、わたしは何度も何度も繰り返し見入った。
 表紙のくま一家の影がなぜ四角なのか。娘といっしょに考えたけれど、答えが出せなかった。娘曰く「細かく描く時間がなかったから、四角にしたんじゃないの」……。わたしは、童話の四角ばった本から登場したくま一家というおとぎ話の架空性が示唆されているんじゃないか……と思ったり。ほかにもイラストの細部に見どころ満載。タイトルは、「ぼくときみ」。幼少期へのほのかな追憶を表しているようにも思える。
 読後は充足感に満たされ、久しぶりに「絵本を読んだ」気持ちに浸っていた。これが英国の絵本の魅力だと思う。
四季の絵本手帖『すきですゴリラ』 - 絵本手帖

Me and You

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