Clancy & Millie and the Very Fine House 箱から生まれるイマジネーション

 なにげない日常を描きながら、イマジネーションの広がりが奥深い魅力となる絵本。それが"Clancy and Millie and the Very Fine House"だった。
 住み慣れた家を離れて都会に引っ越してきた男の子クランシー。お父さんとお母さんは新しい居住環境に大満足だけれど、すべてが広く感じられてクランシーはなじめない。外に出てみると、引っ越しで使われた大きな箱が山積みになっていた。冷蔵庫や洗濯機の入っていた箱、クッションやカーペットを運んできた箱もある。箱に触れて中に入り込んだクランシーは、四角い自由な空間がいくつも存在する「箱」の魅力にとりつかれていく。
 ここは読者の誰もが追体験に浸る場面だろう。絵本の中でも、やはり、ほらね。箱の魅力にとりつかれていたのはクランシーだけではなかった。その女の子はミリー。クランシーとミリーはいっしょに、3びきのこぶたの家でごっこ遊びをはじめる。
 わあ、これはすてきなお話だ。子どもたちにおなじみの「箱」のマジカル・パワーが、しっとりしたイラストで慎ましく、でもだからこそ力づよく描かれている。引っ越しで使われた箱の数は、子どもの視点からみると30個にも50個にも見える。現実的にはありえそうもない数の箱が現れるところでは、クランシーの空想が果てしなく広がっていく過程を見せてもらっているようである。
 楽しく愉快なイマジネーションがテーマであるにもかかわらず、全体のイメージはやさしく控えめだ。抑えた色合いの茶系を使用することにより、大人をノスタルジーに誘う知的な静謐さが漂う。この、それとなく淋しげにもかかわらず、ほんのりあたたまる落ちつきぐあいがこの画家の魅力なのだろう。新しい環境になじめずにいる少しの不安と、これから友だちといっしょに過ごす日々への希望の両者が、巧いぐあいに描かれている。
 The Children's Book Council of Australia賞に輝いたオーストラリアの絵本。 

Clancy and Millie and the Very Fine House

Clancy and Millie and the Very Fine House

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