MOON PLANE 月にとんでいったなら

 日々、カラフルなものに囲まれていると、一見無表情で静かな色彩に引かれたりする。中秋の名月をとうに通り越してしまった九月の終りに、ちょっと不思議できれいな絵本『Moon Plane』に出会った。日常風景と宇宙的な月のイラストが交錯した、詩的な絵本。作者の個人的な思いが詰まっているとも思える小作品だった。
 見上げた空に見えたプロペラ飛行機。男の子は考えた。「あの飛行機に乗ったら、何が見えるだろう」。自動車を見下ろし、列車を追い抜き、広い海を渡るヨットよりも遠く彼方へ。もし、男の子が飛行機に乗り込んだら、きっと宇宙をめざし、月に到着するんだよ。
 音も空気もないという月の存在感を表すため、着色は生物を中心にほんのり施されているだけ。『Hondo & Fabian (Caldecott Honor Book)』(邦訳『ホンドとファビアン (海外秀作絵本)』)でさえ多色に見えてくるほどで、月以外の場面で音が聴こえているはずなのになお静寂感が残る。色がなくても印象に残る作風は、作者ならではの表現力だと思った。男の子の表情が息子の小さなときにそっくりで、思わず夢想。絵本の親子を自分たちの姿に重ね合わせていた。(asukab)
amazon:Peter McCarty

  • やさしくて、同時に洗練された鉛筆画

Moon Plane

Moon Plane