四季の絵本手帖『よかったねネッドくん』

よかったねネッドくん

よかったねネッドくん

パーティーに招かれた主人公ネッドくんのスリル満点大冒険ストーリーです。
 思いもよらない招待状に大喜びしたのもつかの間、ニューヨークに住むネッドくんは、フロリダに行くすべを知りません。でも大丈夫、友だちが飛行機を貸してくれました。ところが出発したのはいいけれど、なんと飛行機は途中で空中爆発してしまいます。でも大丈夫、パラシュートがついていました。ところがパラシュートには穴が開いていて……という幸運と不運の連続が、うれしいできごとは「よかったね!」のカラーページ、行く手をはばむ悪いできごとは「でも、たいへん!」の白黒ページで描かれます。子どもはスピード感あふれる劇的な展開を交互に体験し、まるで自分のことのように一喜一憂することでしょう。奇想天外な事件、予期できないネッドくんの行動には、ハラハラドキドキ目が離せません。「よかった!」「でも、たいへん!」のくり返しは、ジェスチャーを交えた感情表現で遊びたいところです。
 ネッドくんがやっとのことでたどりついた場所は、どこだったのでしょう。最後のどんでん返しが目的地という設定に、子どもは大喜びのはずです。テーブルの上にはこぼれおちそうなほどのごちそうと大きなケーキが置かれ、ケーキには十三本のろうそくの火が揺れていました。大冒険の末のこの晴れやかな気持ちはうれしいごほうびであり、ネッドくんは読者の羨望を浴びることになります。(asukab)

ヘレン・バナマンの原作絵本

 予約しておいた『The Story of Little Black Sambo』(1923年版)が届いたと図書館からメールが入った。「THE ONLY AUTHORIZED AMERICAN EDITION」と記されていたものだ。
 手にしてみて、この表記はしっかり表紙に印刷されていた。絵はバナマン自身によるもので、英国の原書復刻版と謳う邦訳版『ちびくろさんぼのおはなし』と同じ内容。つまり、100数年前に出版された原書と同じ内容になる。
 お話は知られている展開そのもの*1である。ところが、邦訳版と米国版を比べてみると、いくつか違いがあった。たいしたことではないかもしれないが、まずサイズが違う。邦訳版(13×8センチ)の方が米国版(14.5×11センチ)よりわずかに小さい。絵はレイアウト自体は同じけれど、米国版のほうは誰かがトレースをして模写したという線が見て取れる。木や草の部分の描き方など、色もちょっと素人っぽい塗り方だろうか。昔の本だから模写して出版するなんてこともあったのかもしれないと感じた。そうして序文と読むと案の定、この版は"Little Black Sambo"を収録する子どものお話集から厳密に手描きで模写をして印刷された旨が記述されていた。「……黒人の子どもがたくさんいて、トラが日常茶飯事に現れるインド……(……in India, where black children abound and tigers are everyday affairs,……)」という表現は、100年前の英国家庭の世界観を表していると思った。図書館には他にも「THE ONLY AUTHORIZED AMERICAN EDITION」として1951年版があったが、あれも作者はバナマンの名前だけだったから中身は同じだろう。
 「唯一の米国認可版」の記述は「歴史的産物なので、時代背景を考慮するように」という注意書きだとわたしは解釈している。息子にも当時の英国植民地の背景を説明してからページを開いた。
 当時の認識は、現代の認識とは異なる。どんな社会でも不快を取り除くことが命題なのではないか――少なくとも、子どもに関わることであれば。だから邦訳版にも、原書の復刻版であることと同時に、(米国版は模写ではあるけれど)「唯一の米国認可版」となっていることを伝える義務があるんじゃないかと感じた。こうすることで、歴史を振り返ることができる。(asukab)

ちびくろさんぼのおはなし

ちびくろさんぼのおはなし