四季の絵本手帖『はろるどとむらさきのくれよん』

Harold and the Purple Crayon

Harold and the Purple Crayon

 ハロルドのクレヨンは、紫色の不思議なクレヨンです。線を引き、絵を描けば、いつの間にか描かれた空間の中に入り込める魔法のクレヨンでした。ある晩、月夜の散歩をしたくなったハロルドは、月が出ていないので、月を描き、道も加えました。ハロルドが自分の描いた道を進む光景は、子どもにとりだまし絵の中で遊ぶような感覚でしょう。ここからハロルドの視覚トリックの世界が始まります。
 思い通りに近道をして、木を描き、りんごを実らせ、木の下で番をするドラゴンを描き……と広がるイマジネーションからは自由自在の空間が生まれます。予想のつかない展開が巡りながら冒険は続きました。
 ドラゴンにおびえ震える手で描いた波線が海の波になりおぼれかけてしまう場面や、山を描きながら思わず身を乗り出して落下してしまう場面では、ハロルドはここぞとばかりに機転を効かせ窮地を逃れます。気を取り戻してクレヨンに頼り、自己救助を実現してしまうのですから、クレヨンの存在は子どもにすれば鬼に金棒のようなものでしょう。「こんなクレヨンが欲しいな」と、思わずにはいられません。小気味のいい場面の転換がテンポよく子どもを引き込み、紫の線の魅力はますますさえ渡ります。
 夜風に揺れるカーテンとともに、最後の2行が1本のクレヨンから始まった摩訶不思議な冒険の余韻を残します。(asukab)