四季の絵本手帖『おちゃのじかんにきたとら』

The Tiger Who Came to Tea

The Tiger Who Came to Tea

 
 ある日突然、見上げるような背丈の大きなトラが家にやってきたらどうしましょう。しかもトラは礼儀正しく、お茶の時間にごいっしょさせていただけないかと頼むのです。思いもかけない冒頭のできごとに子どもは一気にお話の世界に入り込みます。平穏にトラと会話を交わすソフィーとお母さんの行動は、ドキドキしながらも、なぜかすてきなことにも思えるでしょう。
 オレンジ色と黒のしま模様の巨体がテーブルに着くと、ソフィーたちは穏やかに笑顔で対処していきました。その大きさゆえの食欲でトラがお茶菓子ばかりでなく、作りかけていた夕食や冷蔵庫の食料も全てたいらげてしまう場面では、同情の気持ちが生まれても不思議ではありません。超現実的なできごとに直面しても慌てることなく大切な客人としてトラをもてなし、何ごとも起こらなかったようにトラと別れたソフィーとお母さん――異常の平常さは不思議なおかしさを生み出し、お茶という和やかな時間を最後まで演出します。
 夕食がなくなってしまいお母さんは初めて困った顔を見せますが、帰宅したお父さんがちゃんと問題を解決してくれました。夜の街を親子3人仲良く歩いていく姿は、幸福の一言で語られます。「うちにもトラが訪ねてくるかもしれない」と子どもに思わせる結末は、お話の奥行きの深さでしょう。懐かしさを感じさせるイラストは、まごころいっぱいの温かさをそえています。(asukab)