夏のひそかな楽しみとなる絵本#6 男の哀愁につきる海賊絵本

 こういう「間」の生きる絵本は、どう考えても言葉の達人じゃないと創造できない。メム・フォックスはオーストラリアで活躍する作家なのだが、教師や図書司書、書店関係者らを中心に米国にも支持者がたくさんいる。何が光るのかと言えば、語感なのだそうだ。『Tough Boris』を教えてもらい、それは心底納得のいく答えだった。絵本では何冊か邦訳作品もあるけれど、海賊ボリスの人間性を描くこの絵本には彼女の人気の秘密が集約されている。
 ここには、シンプルな表現、ゆえに深く迫るメッセージ、絵と言葉の繰り出す「間(時間)」と「空間」など、絵本に不可欠な要素がさりげなく揃っている。情け容赦ない残忍な海賊と冒頭で謳っておきながら実は心優しい野郎たちだったことが、1羽のおうむの死を通して語られる。語り手はひとりの少年(彼はバイオリン弾き)というところも、子どもにはじんわり伝わる要因になるだろう。潮風の香り、バイオリンの音色、帆のはためく音……が、イラストにはそのまま表れている。描かれるのは「男の世界」ってところかもしれないが、誰が読んでもその哀愁は心に染み入るものだと思う。
 ストーリーは、中表紙から始まっている。海賊絵本にもかかわらず、息子も娘も静かに海賊たちの生きざまを見守る絵本である。でも、娘は「どうして海賊が泣くの?」なんて言っているから、ちょっと難しいのかも。もう少し大きくなったらこの涙が理解できるかな。イラストの内容を含め、小学生向きの絵本かもしれない。(asukab)

Tough Boris

Tough Boris