BEATRIX ピーターラビットが生まれるまで

 伝記絵本『Beatrix: Various Episodes from the Life of Beatrix Potter』を開いたとき、その手のひらサイズがピーターラビット・シリーズにぴったりと思えた。しかしながら、田園で繰り広げられるおおらかな動物物語のイメージとは裏腹に、表紙に描かれた少女ビアトリクス・ポターの表情は硬い。写真のイメージをそのままイラスト化したのだろうけれど絵本の表紙には珍しく、少女は淋しそうな顔でこちらを見つめていた。
 父親が弁護士という家庭に生まれた彼女の幼少期は、両親とのふれあいがほとんどなかった。育児・教育を担当していた住み込み家庭教師と接する時間も、弟の誕生を機に奪われてしまう。そんなビアトリクスの唯一の楽しみが、自然と戯れることだった。
 『ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)』シリーズは、最後の家庭教師だったアニー・カーターの子どもに当てた手紙に書かれたお話集。自分の楽しみのためでもあった創作は成功を収め、自然に恵まれたヒルトップ・ファームに居を移すきっかけになる。四十七歳で結婚したビアトリクスは、豊かな自然に囲まれ満ち足りた日々を送った。
 孤独な幼少期を埋めるかのように自然との交わりを深めていった人生を思うと、自己慰安なしに「時代に耐えうる創造」はないことがわかる。
 子どもにしてみたら描かれる場面はつらい日々かもしれないけれど、わかりやすい一人称で語られていること、ビアトリクスの語った言葉の引用が斜体で示され臨場感にあふれていることで、娘の気持ちをどんどん引き付けていった。「このお話、だ〜い好き。これライブラリーの本? うちの本?」と尋ね、借用図書と知るとすごく残念がっていた。読後はピーターラビットのマグカップから青いジャケットを着たピーターと文章の冒頭部分を書き写し、ご満悦だった。
 と、書き終ったところで偶然にも邦訳『ビアトリクス・ポターのおはなし』が今夏、出たことを知る。わあ、日本語で読んでみたいなあ。(asukab)
amazon:Jeanette Winter

  • 動物たちとのふれあい場面が魅力的

Beatrix: Various Episodes from the Life of Beatrix Potter

Beatrix: Various Episodes from the Life of Beatrix Potter

  • 詩人長田弘さんの訳なので、期待大

ビアトリクス・ポターのおはなし

ビアトリクス・ポターのおはなし