一枚の絵

 『暮しの手帖(24号2006年10・11月)――松本竣介への旅』を読んで。
 一枚の絵がなぜこれほどに感動を与えるのか、心に深く語りかけてくれる記事だった。画家松本竣介への旅は、群馬県桐生市にある大川美術館から始まる。黒いソファーに座りまっすぐ目の前の「街」に見入ると、それは現実の街なのだが、何か妖精の飛び交っているような少し翳りのある夢の中の街にも見えた。
 中学のときに聴覚を失った画家は、都会の中に確かな線を見出して、街の風景を描き続けた。建物とは冷たいイメージを持っていたが、彼の描く街のなんとやさしいこと。やわらかい色合いと線が、画家自身を語っているようでもある。三十六歳で夭折した彼が生きていたら、その後、どんな絵を残したのだろう。
 絵はいい。平面だからいい。造形や建築、映像もアートなのだけれど、絵は二次元の世界だからこそ、とてつもない広がりが感じられる。八ページにわたる特集を読み、心が解き放たれた。「毎日、街を歩き、街を描いた」という彼の、心がそのまま見えたからだと思う。