The Escape of Oney Judge: Martha Washington's Slave Finds Freedom 米国初代大統領夫人に仕えた奴隷オーニー・ジャッジ(1773-1848)を描く絵本

 歴史ノンフィクション絵本『The Escape of Oney Judge: Martha Washington's Slave Finds Freedom』を読み、表から見えない部分の歴史を垣間見ることができ興味深かった。
 主人公オーニー・マリア・ジャッジは、米国初代大統領ジョージ・ワシントン家で働く奴隷の女の子である。彼女がお屋敷に呼び寄せられ比較的優遇された役割――針仕事や夫妻の孫娘ネリーの遊び相手――を仰せつかった理由は、父親が英国から渡米していた年季奉公人で彼女の肌の色がほかの奴隷たちよりも少し薄い茶色だったことにあった。ジョージ・ワシントンの妻マーサ・カーティスは、再婚である。つまり、彼女が連れてきた奴隷たちの処遇に関しては、死別した前夫の意思――逃亡したら極刑――に従わなければならなかった。ワシントン一家は大統領当選を機に居を首都ニューヨーク、次にフィラデルフィアと移し、オーニーもお抱え使用人としてついて行くことになる。しかし、フィラデルフィアでは六か月住み着くと奴隷が自由になれることを知り、オーニーは密かに逃亡を思案し始めた。奴隷制度廃止を嘆願するクエーカー教徒や友人たちの支えもあった……。
 オーニーの存在はワシントン家に仕えていたということで、逃亡後もたびたび注目*1されたようだ。腕利きのお針子でもあったので、マーサ夫人は幾度も使いを送り戻ってくるように催促したが、オーニーは結局自由を選んだ。「我が家の子どものようにかわいがってあげた娘が、逃げたりするかしら?」――あれほどよくしてあげたのに、なぜ逃げたのか。鳥かごの中で暮らすか、大空にはばたくか。オーニーの選択は現代でも多くを示唆する。
 彼女を取り巻く人間関係が当時の社会性を反映し、今とつながる事実に感動する。(asukab)
amazon:Emily Arnold McCully

  • 巻末に歴史的背景の解説があり、独立戦争前の北部を知る資料にもなる

The Escape of Oney Judge: Martha Washington's Slave Finds Freedom

The Escape of Oney Judge: Martha Washington's Slave Finds Freedom