歯医者のねずみvs患者のきつね

 息子とわたし、歯科検診を終える。6か月ごとの定期健診だが、この国の歯科衛生の発達ぶりには毎度のことながら感心させられる。ピッカピカのスマイルで異性を魅了するのに、まぶしい歯は切り札だものね。とりあえず2人とも検診のみで、治療にならずよかった。
 新しい歯ブラシとフロスをもらって帰ると、娘は決まって自分も歯医者に行きたいと騒ぎ出す。「歯医者さん、大〜好き」の一言と共に。まったく、わたしの子どもの頃とは大違い。歯医者ほど嫌いなものはなかったのに。
 『歯いしゃのチュー先生 (児童図書館・絵本の部屋)』は、うちの人気絵本ベスト10に入る作品かもしれない。小さな賢い動物が本能丸出しの天敵をさらりとユーモアでかわすところが息子に受けて、今でも彼のお気に入りになっている。滑車やはしごを使って治療に専心するプロフェッショナルぶりも楽しいみたい。設備投資を怠らないチュー先生の心意気は、腕利き歯医者さんの証明でもあるんだろう。ただ、チュー先生はねずみなので、当然のことながら「危険な動物おことわり」の看板を掲げている。(このあたりがかわいいなあ、と個人的にホロリ。)ところが、ある日、虫歯の痛みに涙するきつねを哀れに思い、危険を承知で治療を引き受けることに……。
 手に汗握る、どきどき、ひやひやの連続はここから始まる。大きく開けたきつねの口からは、虫歯に侵された息が匂ってきそうで何とも生生しい。こんな匂いの口にならないように歯を大事にしようと読むたびに思うから、まさに歯科衛生にはぴったりの絵本なのだ。わたしの歯はもうガタが来ているけれど、健康維持の大切な基盤だし子どもたちには歯を大事にして欲しいなあ。
 ところで、わたしは「チュー先生」という邦訳にまいった。とてもおもしろいと思う。原書は「de Soto(デ・ソト)」でスペイン語の苗字。(asukab)

Doctor De Soto

Doctor De Soto