四季の絵本手帖『はなをくんくん』

はなをくんくん (世界傑作絵本シリーズ)

はなをくんくん (世界傑作絵本シリーズ)

 「ゆきがふってるよ。のねずみがねむってるよ」――冒頭の親しげな語りかけは、魔法の言葉です。子どもは一瞬のうちにお話のぬくもりの中に飛び込み、これから起こるできごとを静かに見守りはじめます。
 森にも野山にも、雪はしんしんと降りつもります。ほらあなや地中、木のうろではくまやりす、かたつむり、やまねずみたちがぐっすり冬眠中でしたが、ふと何かの気配を感じて目を覚ましました。
 ゆっくりと一匹一匹起き上がる動物たちによって、寂しい森の風景がしだいに活気を帯びていく光景は圧巻です。静から動への変化は子どもの好奇心を喚起させ、視点は一気に動物たちが駆けだした目的地に向けられます。眠そうだった顔はいつの間にか笑み、動物たちの群れは流れるように進みます。いったい何が起きたのだろう――子どもの素直な疑問と期待は「はなをくんくん」の表現とともに大きなうねりとなり、最終ページのうれしい発見に結びつきます。
 イラスト中、唯一の彩色によって白黒の冬景色が明るい喜びに満たされる場面は、子どもの心に鮮明な春のイメージを残すでしょう。もちろん、動物たちのすてきな笑顔も同時に忘れられないものとなります。芽吹きの季節は、もうすぐそこまできています。うれしい予感を鮮やかに描く、黄色が印象的な絵本です。(asukab)