四季の絵本手帖『ペレのあたらしいふく』

ペレのあたらしいふく (世界傑作絵本シリーズ)

ペレのあたらしいふく (世界傑作絵本シリーズ)


 小さな男の子ペレは自分の子羊の毛を刈り、一着の服を作ろうと思い立ちました。
 羊の毛から一着の服を仕上げる過程には、さまざまな人々の暮らしが存在します。昔の暮らしの成り立ち方は理にかない、ひとつとして無駄がありません。毛をすき、紡いで毛糸にし、青色に染め、布を織り、最後に洋服に仕立てるまでの流れは、携わった人々の心と時間を費やして生まれる物の尊さを率直に示しています。子どもは美しいイラストとわかりやすい文章で紹介される生産の段取りを目にして、農村の素朴な暮らしぶりにどんどん引きこまれていくでしょう。ペレがひとつひとつの作業をおばあさん、ペンキ屋さん、仕立て屋さんたちにお願いする代わりに農作業を手伝い、買い物に行くことで返したお礼は、子どもにとって社会性の大きな学びとなるにちがいありません。
 春の野原で柔らかそうな子羊を抱いていたペレが、秋を迎え新しい服を誇らしげに身にまとう姿は晴れがましさに包まれています。一生懸命働いた報酬はもちろん新品の青い服ですが、服ができあがるまでに体験した人々との交流、心も体も大きくなったペレ自身の成長もこの上ない収穫です。すがすがしい気分でいっぱいのペレの姿は、子どもにしてみればうらやましくもあるでしょう。服作りに携わった人々から祝福を受け、目的を達成したうれしそうな笑顔はさらに輝いて見えます。(asukab)