四季の絵本手帖『はなのすきなうし』

はなのすきなうし (岩波の子どもの本 (11))

はなのすきなうし (岩波の子どもの本 (11))

 昔、スペインのある牧場にフェルジナンドという子牛がいました。他の牛たちは毎日、飛んだり、跳ねたり、頭を突きあったりしているのに、フェルジナンドはいつも草の上に座り静かに花の匂いをかいでいました。
 猛々しい牛たちと気の優しい牛――さまざまな個性を目の前にして、子どもは素直に違いを受け止めます。特異性を意識するのは、むしろ大人の方でしょう。しかし、フェルジナンドの母親は立派でした。一日中、花の匂いをかいでいる息子を見て、寂しくないかしらと心配はするものの、本人から「ひとり、はなのにおいをかいでいるほうが、すきなんです」と聞いて、そのまま好きなようにさせてあげたのです。
 ある日、運悪くクマ蜂の上に腰を下ろしてしまったフェルジナンドは突然走った痛みに驚き暴れ、どう猛な牛と間違えられて闘牛場へ連れて行かれてしまいます。偶然のできごとから場違いの舞台に引き出されてしまったフェルジナンドはどうなるのか。けれども、どこにいても結局、フェルジナンドは花の好きな牛のままでした。
 本人が幸せであることに勝ることはありません。それをとうに知っていたフェルジナンドの母親に、敬意を表したくなる絵本です。闘牛場やスペインの村々、町並みに、異国文化への興味も高まることでしょう。(asukab)