四季の絵本手帖『かあさんのいす』

A Chair for My Mother

A Chair for My Mother

 ローザ、母親、祖母の3人は火事ですべてを失うという苦境にも屈することなく、明るく前向きな生活を送っています。ローザの母親は一家の大黒柱としてブルータイル食堂で働き、ローザもときどき学校の帰りに手伝っていました。一家は大きなガラスのビンに少しずつお金を貯め、いっぱいになったらでふかふかで華麗なバラ模様の世界で一番すてきな椅子を買うつもりでいました。
 黒一色、焼け焦げた部屋を窓から見つめるローザたちの悲しい表情は子どもには衝撃かもしれません。けれども、親戚や地域の人々に支えられながら懸命に生きる3人の姿はさわやかで、ゆったりとした温もりすら感じ取ることができます。ローザの一人称による語り、まるでローザが描いたかのようにも思える鮮やかな水彩のイラスト、そしてみんなが夢見るふかふかの大きな椅子――すべてが子どもの心をとらえ、目標に向かって助け合う家族をあたたかく描き出しているからでしょう。
 家具屋さんで「『3びきのくま』の小さい女の子になったみたい」にたくさんの椅子に埋もれる彼女たちの姿は、無邪気な喜びに満ちあふれます。疲れた母親を癒し、家族みんなが安らげる、夢にまで見た大きな椅子は柔らかく華麗で存在感たっぷりです。椅子のバラ模様は幸福の象徴となり、3人を包み込みます。マイノリティーとして米国社会でたくましく生きる家族の笑顔は、心地よい活力を与えてくれます。(asukab)