四季の絵本手帖『ちいさいおうち』

ちいさいおうち

ちいさいおうち

 昔むかし、田舎のずっと静かなところに小さいおうちは建てられました。とても丈夫な家で、長い間、のどかな田園風景に囲まれた日々が続きましたが、それでも流れる歳月とともにおうちのまわりは少しずつ変化していきました。牧場が開かれ、道路が通り、いつの間にか馬車の姿は消え、自動車が走りだしました。交通量が増え、やがてまわりには背の高いビルが建てられ、電車まで走るようになりました。近代化の波に押された景観の変貌ぶりは、小さいおうちの心情を通しても語られます。街に興味を抱いていたおうちは、高層ビルと高架線に挟まれた環境の中で初めて自分の価値観を見いだすのでした。「まちはいやだとおもいました。そして、よるにはいなかのことをゆめにみました」――。おうちのつぶやきが飾らず素直であるだけに、社会的、哲学的な奥の深いテーマの作品にもかかわらず、メッセージは子どもの心に十分浸透します。おうちの語る自然への回帰は、人間と自然の理想の関係を教示しているといえるでしょう。文明が進み便利になっても、自然との共存を忘れない生活の価値はいつも子どもといっしょに考えていたいものです。
 「はるです……いなかではなにもかもがたいへんしずかでした」の最終行は、人間として抱いていたい心の状態をも説いているかのように聞こえます。時代に流されることのない人間生活の原点を再認識させてくれる、心あたたまる絵本です。(asukab)