こういう生き方が魅力的

 土曜日には、息子の野球チームのトーナメント第1回戦があった。市内各地区で優勝した8チームが勢ぞろいして、当市リトルリーグのチャンピョンチームを決定する。うちを除いた7チームにはすべてスポンサーがついていてびっくり。ユニフォームは自費ではなくて、みなスポンサーとなった会社や商店が購入してくれたのだ。
 わたしは仕事で行けなかったけれど、息子と主人が午前10時の開会式に行くと、マグノリア地区のチームには、マリナーズ投手モイヤーの息子ハットン君が遊撃手として出場していて家族が応援に来ていたそうだ。残念ながら息子のチーム、RUG Dodgersは初戦敗退。でも、息子はさっそくモイヤーからサインボールをもらって帰って来た。
 前夜は当地のセーフコフィールドでメッツの石井投手と投げ合ったモイヤー。さすが、ファミリーマン。翌朝には父親として息子の野球観戦だ。日本ではどう伝えられているか知らないが、米国MLBは基本的にファミリー・エンタテイメントなので選手は家庭を大切にする人が多い。また、そういう姿が社会的に求められている。特に知名度の高い選手であればあるほど、子どもや社会のロールモデル(お手本)になることは当然と理解される。歴史が長く保守的なスポーツということもあるだろう。大学スポーツの延長のような文化のフットボールやバスケットボールとは格が違う。
 ちょうどスポーツ専門局ESPN MLBウェブサイトで、野球コラムニスト、バスター・オルニー氏がモイヤーのことを書いていた。金曜日のモイヤーの好投を受けての記事で、10年前、オリオールズで解雇されそうになっていた頃の話だった。モイヤーはドラフト自体は6巡目(84年、カブス)でこれは悪くない。むしろ、期待の新人だったといえる。メッツの捕手ピアッツァが62巡目(88年、ドジャーズ)だったことと比較するとよくわかると思う。ドラフト順位が高くても消えていく選手がいるかと思えば、下位でも伸びる選手はたくさんいる。特に怪我は選手生命を大きく左右する。
 カブス、レンジャーズ、カージナルスオリオールズとやってきて、ストレートの球速が最高で85マイル程度と伸び悩み、再びいつ他球団に渡ってもおかしくない状況がモイヤーに訪れていた。最後にはMLBから消えていくという道が、彼の目前に示されていたことになる。その窮地にモイヤーは、何をしたか? 答えは、「走ること」。オルニー氏によると、試合前練習開始の何時間も前にやってきて、ラップを取りながら球場を走っていた。遠征地でも同じこと、とにかく走る、走る、走る。インタビューしてみると、自分を取り巻く状況には悲観的にならず、必ず実力が発揮できることを話したそうだ。
 その後、レッドソックスを経てマリナーズにやってくるのだが、ここで、速い球よりも遅い球で打者をかく乱する彼ならではのユニークな軟投法を会得する。それ以降は20勝以上を2回記録するなど、マリナーズにはなくてはならないピッチャーになった。メッツの松井選手によると、モイヤーの球って、ヨレヨレヨレとやって来てヒョロッと打者のバットを避けて捕手のミットに収まるんだそうだ。殿堂入りする投手ではないけれど、自分を信じて成功を手にした立派な投手だとオルニー氏は結んでいた。
 わたしはこれを読み、東部生まれのモイヤーが、当地を愛する理由がよくわかった。彼にとって、ここは自分らしさを手にして成功した特別な土地なんだ。彼の場合、自分らしさで成功して、社会的にも地元コミュニティーから大きな賞賛を得る理想的な生き方をしている。社会的に大きな成功を収めても自分らしくなく不幸せな人に比べたら、格段に幸せな生き方である。そんなモイヤーを父親を持つハットン君は、幸せな子どもだ。
 自分に誇りと自信を持って生きなさいという姿勢は、『I Like Me! (Viking Kestrel picture books)』によく表れている。自分が好きでなかったら、そんな生き方はとうていできない。この絵本でぶたさんは失敗しても、うまくいかなくても、何度も挑戦して、いつでもどこでも自分らしく生きる姿を見せてくれる。米国の明るいハートのかたまりとなって。わたしはこの作品で、ナンシー・カールソンの大ファンになった。姉妹編『A B C I Like Me!』も、心のビタミンのいっぱいつまった元気の出るABC絵本である。こういうself-esteemを高める絵本はたくさんあるけれど、このぶたさんの表紙はあちこちでよく見かける。プレスクール、幼稚園にはなくてはならない一冊で、授業でも多く利用される絵本だ。でも、ページを開けば、それも納得。コミカルに大切なことを伝えてくれて、子どもはぶたさんの心意気に大いに魅せられてしまう。ぶたさんの頑張っている姿は、きっとすごく心強いんだろう。カラフルで大胆な色使いも、人気の秘密だと思う。
 ぶたさんが示す「positive thinking」――これは、米国人の登録商標のように思える。本当にくじけない人が多い。よくここまで楽観的に考えられるなと、主人を見ていて思うことがあったりもする。でも、この気持ちの持ち方なんだよね、人生が楽しくなるか、ならないかの違いって。小さな頃から、自分らしく前向きに生きることを教えられているから、彼らにしたらこれが普通? ある意味、西部開拓精神のような気もしている。(asukab)

I Like Me! (Viking Kestrel picture books)

I Like Me! (Viking Kestrel picture books)

A B C I Like Me!

A B C I Like Me!