四季の絵本手帖『からすたろう』

からすたろう

からすたろう

 村の小学校の一日目、生徒がひとりいなくなってしまいました。校舎の床下に隠れていたのは、小さな男の子です。ニックネームは、ちびでした。授業が始まると、ちびは先生を怖がり何一つ覚えることができません。クラスの子どもたちとも、ちっとも友だちになりませんでした。
 勉強の時間にはひとり放って置かれ、休み時間にはひとりのけ者にされたちび――子どもは、冒頭の状況から、ちびのクラスでの存在を即座に察知することでしょう。お話は、クラスで異端とされたちびがどんな学校生活を過ごしたのか、淡く美しいイラストとともに丁寧に語っていきます。「うすのろ」「とんま」と呼ばれても、ちびは欠かさず学校に通いました。雨の日も、嵐の日も、みのにくるまり、菜っ葉でくるんだ握り飯の昼食を携えて。
 こうしてちびは6年生に進級し、クラスは若い磯辺先生を迎えます。この先生は、ちびが自然事象に博学であることに感心し、ちびの絵や習字を壁に張り出し、ちびのことをもっともっと知ろうとしました。そして、ちびのすばらしさは、その年の学芸会で証明されることになります。
 級友のひとりがちびの様子を語るスタイルは、淡々とした叙述であるだけに心に迫ります。ノスタルジックな日本の風景とともに、いつの時代にも人の心を育てる人は存在し、その姿勢は時代を越えることを伝えます。時代は違っても、子どもは自分の学校生活を重ね合わせ、大人は教育の意味を問い直しながら、ちびの心情を振り返り、磯辺先生の存在に教育の力を見出すことでしょう。(asukab)