子どもと果実のすてきな関係

 真っ赤になったさくらんぼをうれしそうに振りかざす娘、赤くなっていないかなあといちごの草むらを探る息子――夏は、果実とのすてきな関係が築ける季節である。実が熟す前に摘んでしまうことは、2人ともすでに経験済み。ぷちっと付いた実は子ども心を一瞬のうちに弾ませてしまうんだよね。はやる気持ちも十分理解できるところだけど。もう少ししたら、野生のブラックベリーも熟れ始める。茂みの中でひとつひとつを摘む時間は、夏の小さな楽しみとして過ぎていく。
 ベリーの絵本といえば、『サリーのこけももつみ (大型絵本)』が欠かせない。ブルーベリー(こけもも)は触れるだけでポロポロとこぼれるように取れるので、小さな子どもにはうってつけのベリー。この絵本は、子どもたちのブルーベリー摘みを何倍にも楽しいものにしてくれた。
 作品には、母親といっしょにこけももを摘む子どものささやかな楽しみが、北米のさわやかな夏の景観とともに描かれる。子どもにとって母親といっしょに出かけることは、それだけで心躍るできごとのはず。それが初夏の風渡るこけもも摘みとあればなおさらである。一枚の絵のように完成された母子の光景は、山のこちら側にサリーとお母さん、向こう側にこぐまと母ぐまがこけもも摘みをする対の構図を成し、自然界に生きる人間と動物の共通項を示している。
 「ポリン、ポロン、ポルン」は、サリーが小さなブリキのバケツにこけももを放り入れる音。大自然に触れる喜びと、はち切れんばかりの実がいっしょに跳ねて踊る心地よい響きは、絵本のこちら側でこけももを手にしているかのような錯覚を起こす。途中、サリーとこぐまはこけもも摘みに夢中になるあまりお互いの母親を取り違えてしまうけれど、ここでもいきいきとした擬音・擬態語が子どもたちを再び自分の母親のもとへ引き寄せる魔法の役割を果たしている。 
 藍色の劇画タッチのイラストは人間と動物の対を成すユーモラスな設定をコミカルに表すと同時に、そこに流れるすがすがしい空気、ゆったりとした時間をも描き出す。夏はベリーの季節。ジャムを煮て思い出を作ることも一興。見返しの愛情に満ちたイラストが、そんなひとときを提案している。(asukab)

サリーのこけももつみ (大型絵本)

サリーのこけももつみ (大型絵本)