四季の絵本手帖『チキン・サンデー』

チキン・サンデー

チキン・サンデー

 作者の子ども時代の経験を語った、心温まるお話です。3人の子どもたちとおばあちゃん、帽子屋さんの織り成す人間模様が、魂のこもった写実的なイラストで描かれます。 
 スチュワートとウィンストンのおばあちゃんは、パトリシアにとっては自分のおばあちゃんのようです。宗派が異なるにも関わらず、ときにはいっしょに教会にも連れて行ってくれました。3人は、いつも温かく見守ってくれるユーラおばあちゃんのためにイースターに帽子を買って贈ろうと計画を立てます。足りない金額をまかなうためにユダヤ系移民の帽子屋カジンスキーさんのお店で働かせてもらえないかと思案しましたが、ひょんなことから誤解されてしまいました。この窮地を3人がどう切り抜けるのか、読者は彼らといっしょになって展開を追うことになります。
 実話であるエピソードには、家族愛、友情、信頼といった人間関係を築く大切な基盤がストレートに描かれ、深く胸に響きます。背景にある米国の多様文化も、心を揺さぶる一因でしょう。さまざまな過去を背負った人々の交わりと相互理解には、常にドラマが存在します。南部バプテスト系の文化、東欧ユダヤ系の文化、ロシア文化……登場人物の文化背景が豊かで、彼らの生き様を想像せずにはいられません。特にカジンスキーさんの腕に刻まれた青色の番号は、悲しみの象徴でしょう。その過去をしっかり理解しているユーラおばあちゃんの心の広さは、人間の大きさを伝えています。
 ユーラおばあちゃんの「雷がゆるやかにとどろくような、雨がやさしく降るような」ゴスペルの歌声が聞こえてきそうなお話は、イースターの定番絵本といえます。(asukab)