四季の絵本手帖『かしこいビル』

Clever Bill

Clever Bill

 作者が愛娘メリーに贈ったペン画による手書きの絵本です。登場するものはすべてメリーのおもちゃや所持品で、親子ならではの親密さ、温もりがたっぷりと読み取れます。大好きなおもちゃといっしょに絵本に描かれるとは、子どもにしてみれば究極の幸せででしょう。おばさんの家に招かれたメリーが自分のお気に入りをトランクに詰めて出かける描写には、簡潔な表現と軽快なテンポで子どもを魅了する小さなドラマが繰り広げられます。
 何をいっしょに持っていくのかは子どもにとって一大事で、あれもこれもと思ってもすべてが入るとは限りません。兵隊のビルは「もちろんおいていくわけにはいかない」のですが、時間が迫り慌てて荷物を詰め込むと、信じられないことにビルは置いてきぼりにされてしまうのです。2ページにわたるビルの「なんと!」の悲嘆ぶりと滴る涙は、忘れられてしまった切実な気持ちをドラマチックに表していて、感情を込めて読みたいところです。忘れ物は子どもの生活によくあることなので、きっと子どももビル、メリー双方に同情していることでしょう。ビルがメリーの乗った列車を追いかける姿はファンタジーの極致ともいえ、子どもの生活の中で機会あるごとに思い出される場面かもしれません。
 子どもをあきさせない小劇場は表紙、裏表紙を含めたイラストが構成します。丁寧に絵を眺めビルの気持ちを追って読むと、会話も弾むことでしょう。(asukab)