四季の絵本手帖『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』

スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし

スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし

 海に住む生き物の生態を、透明感あふれる水彩・版画コラージュで描いた作品です。多彩な海洋描写が、小さな魚たちの物語をさわやかに伝えます。
 スイミーは、小さいけれど元気いっぱいの魚です。兄弟が皆、大きなまぐろに食べられひとり海をさまよいますが、旅の描写は詩的で美しく独自の芸術的シアター性を生み出します。「にじいろのゼリーのようなくらげ」「ブルドーザーみたいないせえび」「ドロップみたいないわからはえてるわかめやこんぶのはやし」など、子どもが喜びそうな食べ物や乗り物の比喩は想像力を存分にかきたてます。詩人の訳した言葉ひとつひとつが海に漂い、読者はスイミーと一緒に揺らめく海洋を旅することになるのです。
 見開き一面の海の中、スイミーはすみっこであれ、生き物のかげであれ、どのページにも必ず登場します。子どもは場面ごとに主人公を追い、小さな姿を確認してはほっとしているに違いありません。スイミーが最後に進み出る一点は、勇気と優しさの象徴となる場所です。副題にある「ちいさな  かしこい さかなの はなし」の理由は、ドラマチックな展開を通してここに証明されることになります。
 広大な世界で、海洋生物の存在はほんのわずかな部分を占めるに過ぎません。けれども、読後の子どもの心には小さなスイミーの姿が、リアリティーを持って大きく頼もしく描かれることでしょう。(asukab)