四季の絵本手帖『ピーターラビットのおはなし』

ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)

ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)

 お百姓さんの畑に足を踏み入れたピーターラビットの冒険が描かれる、手のひらサイズの絵本です。
 どんなお話にも忘れられない登場人物がいるように、緑の畑を舞台にしたこの物語ではマクレガー夫妻が圧倒的な存在感を示します。2人がピーターのお父さんを肉のパイにしてしまった過去は恐怖というよりはからっと晴れた事実となってピーターたちに語り継がれ、ストーリーの基盤をなしています。うさぎのパイとは子どもにしてみればショックな響きでしょうが、自然とともにある農村の暮らしは現実としてそのまま絵本の中に存在します。
 畑で繰り広げられるマクレガーさんとピーターの追いかけっこは、手に汗握るスリルに満ちています。物語とはいえこの場面は記録映像のようなリアルさで子どもの前に迫り、実在の田園風景や野うさぎたちの置かれた環境を思い起こさずにはいられません。丹精で写実的なイラストには、豊かな畑の自然がいきいきと描かれます。
 家に戻り、お腹を壊したピーターがお母さんからもらった薬は、カミツレ茶でした。くたくたになるほどの冒険を終えて口にしたお茶は、どんな味がしたのでしょう。間一髪の場面に何度も遭遇し、金ボタン付きのまだ新しかった青い上着を無くしてしまったピーターは、パンのミルクがけと黒いちごの夕食が食べられませんでした。子ども心にも同情の残る一日の終末は、家庭の安らぎと温もりに包まれています。(asukab)