お誕生日絵本カウントダウン#9

 9日目は、『おたんじょうびのエルンスト』。うちにあるのは別の出版社から出ていた『エルンスト』。新しい方にはタイトルに「おたんじょうび」が入ってよかった。実は原書には入っていないのだけど。絵本自体、ストーリー展開を追うというよりは、主人公が空想の世界で遊ぶ、ちょっぴり哲学的な趣向になっている。子ども時代の想像力や創造力をたたえる作者の視点が感じられる。
 エルンストは、「もしも……」と空想することが大好きなワニの男の子。もしも海岸の砂がクリームだったら……、自転車が魔法の馬車だったら……、チョコレートクリームが黒と白のしましまでシマウマみたいだったら……と、イマジネーションは留まるところを知らない。そして、その想いはお誕生日前夜の夢の中で本物になる。
 この見開き6ページに渡るイラストは、読んでいる方も芳しい夢の世界でうっとりとしてしまうところ。砂糖菓子のように星が弾ける宇宙の図、緑の風そよぐ動物と子どもたちの楽園の図、木々の葉を虹色にして自然をたたえる図――どのページもそうだが、特にこの3枚の絵は額に入れて子ども部屋にずっと飾っておきたいタイプの芸術作品である。きれいなもの、すてきなもの、心地よいもののつまった絵には、子どもの頃にたくさん触れたいものばかりが描かれている。
 クレヴェンのことはグリーティングカードで知る。リボン、レース、布、紙使用のコラージュと民族工芸の模様のように細かくて流れる色の水彩画を合わせると、宝石を散りばめたような作品ができあがる。なので、どちらかというと絵本はイラストを堪能する絵本。子どももそこが大好きで、描かれた小さな動物たちとか星とか、そんなところを丹念に追っている。絵からの発見って、絵本ならではの楽しみだものね。娘は、宇宙の図で太陽を探し出し、黒と白のしましまのチョコレートクリームからシマウマが飛び出してくる場面をおもしろがっていた。そうそう、エルンストのキャンドルの数が自分の待ち焦がれている6本だったので、こちらのほうも興奮気味に。エルンストの最後の一言が、子ども時代の象徴かなと思う。
 もしかすると原書で読むほうが自然で、すっと心に入る作品かもしれない。「もしも……」を使ったイマジネーション遊びは小さな頃から非常にさかんで、小学校の授業でもよく取り入れられている。(asukab)

おたんじょうびのエルンスト

おたんじょうびのエルンスト