四季の絵本手帖『ロージーのおさんぽ』

ロージーのおさんぽ (ハッチンスの絵本)

ロージーのおさんぽ (ハッチンスの絵本)

 ロージーは、めんどりです。小屋から出て、散歩に出かけることにしました。後ろからこっそりついて来るのは、お腹をすかせたきつねです。自然界の構図通りきつねは本能に従い行動しますが、あの手この手で迫っても思い描いたようにはいきませんでした。ころあいを見計らったかのように調子よく難を逃れるロージーはのん気な歩調で庭を通り、池を回り、干草の山を越え、粉引き小屋の前を進むだけで、自分の背後に起きていることなど目にも留めません。
 ロージーの様子のみを伝える簡潔な文が「間」のおもしろさを最大限に演出する中で、子どもは秋の農場を舞台にしたお散歩劇場の観客となり、きつねの的外れな行動を堪能することでしょう。様子を伺う「静」と、行動に出る「動」の、見開きごとの変化を笑顔とともに見守ります。きつねが大あわてで逃げ帰る笑劇の終幕は予想どおりかもしれませんが、きつねの失態とめんどりの無関心という対照から生まれるこっけいな空間を、子どもは存分に味わいます。
 明るい黄色、オレンジ、草色の色合いと、民族衣装を想起させる連続模様が、収穫期の田園をのんびりと描きます。脇役であるほかの動物たちの存在も見逃せません。主人公たちが笑いを誘う傍らで、おおらかで牧歌的な秋の一日を過ごす姿です。ロージーにとって何ごとも起こらなかったお散歩は、幸せいっぱいだったことでしょう。(asukab)