夏のひそかな楽しみとなる絵本#3 波との戯れ

 息子がプレスクールの頃、原書絵本『My Life with the Wave』に出会う。とにかく、表紙に吸い寄せられた。その後はページを開いて、ため息の連続。想像の及ばない壮大な発想に感嘆し、それに負けることのない鮮やかで大胆なイラストにただただ見とれていた。お話は、海に行って波を好きになった男の子が波を家に連れ帰り、いっしょに暮らすというもの。「波」という無形の存在を考えると普通じゃ思いも寄らない構想で、しかもそれを絵本にしてしまった――。「超」のつく創造性や意外性を味わうために、以来、夏になったら必ず手にする絵本になる。息子も波と戯れる男の子の様子が大好きだ。誰だって、これは引きつけられずにはいられないイラストだもの。加えて猫の表情や部屋に置かれた物をひとつひとつ追えば、楽しみは何倍にも膨らむ。そして、邦訳『ぼくのうちに波がきた (大型絵本)』の登場〜。やったー!という感じでさっそく入手し、スケールの大きなドラマを今度は日本語で味わい始めた。
 絵本の原案は、メキシコの詩人・評論家でノーベル文学賞を受賞したオクタビオ・パスの短編「波と暮らして(My Life with the Wave)」をもとにする。「波」は「女性」の寓意として捉えられているそうだから、そうして読むとなるほど艶のある雰囲気が漂う。波と遊ぶ男の子の表情が幸せそうでうらやましい。最後の冬の場面は寂寥感が漂うけれど、これは新しい出会いのプロローグになる。ぽっかり浮かぶ空を窓越しに映し出し、この後どうなるかイマジネーションにまかせる終え方が夏らしい。
 絵を担当したマーク・ビューナーは、絵本『ゴリラのマービンにげちゃった』(重版未定)などで知られる人気画家である。男の子の部屋にマービン人形が置いてあり、息子と思わずにんまり。楽しいものね、マービンの絵本。米国では実際にマービン人形があるほど人気作品なので、再版にならないものかと願い続けているのだが……。(asukab)

ぼくのうちに波がきた (大型絵本)

ぼくのうちに波がきた (大型絵本)

  • 残念ながら重版未定、お気に入りビューナー作品

 動物園から逃げ出したゴリラのマービンを絵の中で探す楽しい絵本。これもイラストがカラフル! 息子が大好きだった。邦訳があると知り歓喜するも、すでに手に入らない状態でがっかり……。

ゴリラのマービンにげちゃった

ゴリラのマービンにげちゃった