四季の絵本手帖『てん』

てん

てん

 「認める、ほめる、応援する」――。子どもの成長に大切な行為は、わかってはいても日常に埋もれ忘れてしまうことが多々あるかもしれません。この絵本に出てくる絵画の先生は、生徒であるワシテを「認め、ほめ、応援する」ことで彼女のアートに対する興味をみごとに引き出します。
 お絵描きの時間が終りました。ワシテに与えられた紙はまっ白のままです。苦虫をかみつぶしたような顔つきのワシテに先生は、「なにか しるしを つけてみて。そして どうなるか みてみるの」と小さなことでも始めてみることを促しました。マーカーをつかみ取り、絵の描けない不満をそのまま紙にぶつけたワシテのしるしはたった1つの「点」。先生は出来上がった作品にサインをさせました。翌週、ワシテがお絵描きの教室で見たものは、金色のぴかぴかの額縁に入ったワシテの「点」でした。
 ちっぽけな点が偉大な芸術作品として壁に飾られていた場面では、子どもはワシテと同じように驚きを隠せないでしょう。この刺激は発奮剤となりワシテは今まで開けたこともなかった水彩セットを開き、色とりどり、大小さまざまなサイズの点を描きながらアートの魅力にとり付かれていきます。
 成長したワシテの行動は、すべての人に発せられたコミュニケーションの魔法です。ワシテの先生、ワシテと伝えられた「認める、ほめる、応援する」行為に子どもは共感を覚え、きっと自分の行動にも還元していくことでしょう。心の成長を導く、ささやかでパワフルな秘けつが描かれた絵本です。(asukab)