四季の絵本手帖『シェイカー通りの人びと』

シェイカー通りの人びと

シェイカー通りの人びと

 開発の波に逆らうことなく移り変わるコミュニティーの姿が、等身大に描かれる絵本です。
 生活費維持のために年老いたハーキマー姉妹は、所有していた広大な農場の一部を少しずつ売りに出しました。土地の値段が安かったので、シェイカー通りと呼ばれるその通りには簡易住宅がずらりと建ち並びます。移り住んできたのは、子だくさんの家族をはじめさまざまです。気ままな人たちばかりで、裏庭はいつもガラクタでいっぱいでした。ポンコツ車、ばらばらになった手押し車、ストーブの煙突、さびたブリキ缶、古びたベッド――。シェイカー通りの雑多で質素な雰囲気が気に入らない人たちもいましたが、住人たちはみな助け合って暮らしていました。そこに、ある日、この地区に貯水所が建設される知らせが入ります。
 さまざまな歴史と背景を持つ人々がコミュニティーを形成して暮らす米国社会――。この絵本はそんな現実を、落ち着いた味わい深いイラストとともに淡々と語ります。どんな人が誰といっしょに、どんなところに住んでいるのか……、横長の見開きはシェイカー通りの風景を、住人の紹介を通して映し出します。子どもにもその暮らしぶりは、ありのままの形で伝わるでしょう。事実を描き出すことは美しく、日々の生活以外に時間はどこにも存在しないことを同時に伝えてくれます。
 凛とした人々の視線は、新しい土地で生活を切り開く米国のエネルギーをたたえているかのようにも見えます。ひとつのコミュニティーに流れた年月は、絵本を開いた子どもの記憶の底にも静かに刻まれていくことでしょう。(asukab)