四季の絵本手帖『みえないさんぽ』

みえないさんぽ―このあしあとだれの? (児童図書館・絵本の部屋)

みえないさんぽ―このあしあとだれの? (児童図書館・絵本の部屋)

 副題は「このあしあと だれの?」。冒頭には「あしあとを おいかけよう……」の一言が見られます。中表紙から始まる冬のお散歩絵本は最初の語りかけに文字が使われるだけの、イラストのみの作品です。家の中と戸外の光景には点々と続くスリッパや長靴の足跡が残るだけで、登場人物の姿はいっさい見えません。けれども、男の子が朝起きてからの行動は足跡の方向や位置を通して場面を変えながら見開きいっぱいに示されるので、読者はまるで男の子がそこに動いているかのような不思議な錯覚を味わいます。これは文字のない分、見えないものが見えるように作用する想像力が自然に駆け巡る証拠でしょう。「何をしたのかな?」「どこに行くんだろう?」――イラストを前にして湧き出る子どもの思いはすぐさま親子の会話につながり、コミュニケーションのキャッチボールが始まります。
 丹精なイラストは冬の朝の光景を的確にとらえ、肌に差し込む冷たい空気を伝えます。小鳥や馬にえさを与え、まきを運ぶなど、自然とともに生きる家族の息づかいも足跡が同様に語ります。小川に渡した板や折った小枝など残された行動は子どもらしさの象徴で、どんな様子なのか思い描けば心がほころぶほどです。
 見返しには本文中には描かれない男の子の動作が鉛筆画で紹介され、いっしょに展開を追えばゲームのような楽しさが加わります。イラストを観察しながらのお話作りも、もちろん欠かせません。(asukab)