ガチン、バチン! それなあに? 『Snip Snap! What's That?』by Mara Bergman/Nick Maland

 子どもの頃、怖かったものにベッドやソファーの下の「闇」があった。たとえば寝そべっているとき、ベッドから足がはみ出ていると横長の暗がりからワニが這い出てきて噛みつかれそうな気がしたから足は必ず引っ込めていた。あるときはベッドが船でじゅうたんの海にはピーターパンのワニが住んでいるような気がして、震えながら縮こまっていたことも。こういうときって家族の声を聞くとほっとして、瞬時に恐怖から解放されるので不思議だった。何年か後、オーストラリアでクロコダイルを見たときは、その迫力の巨体におののく。こんなに大きくちゃ、ベッドの下になんて潜んでいられない。
 『Snip Snap!: What's That?』を手にして、なんだかそんな昔を思い出した。ストーリーは、マンホールのふたが開けっぱなしの中表紙から始まる。何者かが、中から出てきたらしい。街の歩道には、点々とした足跡が。その姿を見たのか、血相を変えて逃げ去る人もいる。足跡の主はいったい誰? アパートメントの入り口では、しっぽだけが形を見せた。これはワニ。表紙の顔の一部がそのヒントだが、このあたりで恐怖の原因はワニと判明する。体を引きずりながら階段を登る不気味な音が聞こえてくる。ドアに寄り添い、心配そうにワニの影を見つめる3人の子どもたち。影や体の一部しか描かれないワニが、ゆっくりと距離を縮めて近づいてくる。――「子どもはみんな、こわがった?」――(ページをめくり)「あたりまえじゃん!」で、おろおろ慌てふためく3人の姿。彼らはどうやってワニから逃れるのだろう。究極のサスペンスは、そのスリルとは対照的に親しみやすいイラストでユーモラスに描かれ、終始「怖くて愉快」な雰囲気に包まれる。
 これはおはなし会などのグループ読書にも楽しい。みんなで唱和できる(上記の)お決まりフレーズが大きな魅力になるだろう。このとき、お国言葉で決めれば――「当たり前だっちゃ!」「当たり前じゃが!」「当たり前やん!」「当たり前ずら!」「当たり前さー!」……――興奮は何倍にも膨らみそうだ。このワニはアリゲーターだが、クロコダイルを想起させる大迫力は遠近の構図を巧みに駆使して表現される。特に見開き紙面70%がワニの横顔、100%が正面顔となるページは絶対に忘れられないはず。娘は息を呑みながらワニを追い、わあーっと盛り上がり、3人の子どもたちの仲間入りをした。
 心理的な不安や恐れをどうやって拭い去るのか、読後はそんな「学び」がごほうびとして与えられる絵本だった。よくよく考えれば、それがこの絵本の目的だったんだ。(asukab)

Snip Snap!: What's That?

Snip Snap!: What's That?