四季の絵本手帖『ゆうびんやのくまさん』

ゆうびんやのくまさん (世界傑作絵本シリーズ―イギリスの絵本)

ゆうびんやのくまさん (世界傑作絵本シリーズ―イギリスの絵本)

 郵便屋のくまさんの1日を、町の人々とのふれあいを通して素朴に描いた絵本です。このくまさんは、ぬいぐるみです。人形やぬいぐるみが動き出すことは子どもにしてみればお決まりのイマジネーション遊びかもしれません。でも、そのくまさんが郵便屋さんになり、朝早くから一生懸命働いて、夜は心地よい眠りに落ちる、そんな1日を紹介してくれるとしたらどうでしょう。普段は動かないはずのくまさんが人間といっしょに働く姿は、1日の仕事を追うシンプルな展開にもかかわらず、静かに子どもを絵本の世界に引き込んでいきます。くまのぬいぐるみという親しみやすさと、自分を取り巻くコミュニティーを垣間見るおもしろさが、好奇心を揺さぶるのかもしれません。クリスマス期を迎え大忙しのくまさんの姿を、子どもはうなずきながら見守ります。
 ユニークな設定で進むお話には、子どもを魅了する秘密がさり気なく隠されています。臨場感を湧き立たせる擬態語の繰り返し、思いやりにあふれる人々の存在、大人のように仕事をしているのにおもちゃやサンタクロースへの手紙も忘れないくまさんの性格は、子どもに日常性の心地よさと共感を提供します。
 こうして、くまさんは自分の1日を精一杯過ごします。くまさんの姿は子どもの心と体をを包む温かさとなり、幸せとは日常に備わっていることを何気なく教えてくれるでしょう。安堵に包まれながら眠りにつくくまさんは、子どもの姿そのものでもあります。(asukab)