四季の絵本手帖『ゆき』

ゆき

ゆき

 ひとひらの雪が、灰色の冬の空から舞い落ちてきました。またひとつ、静かに、誰にも気づかれないように、あちらにも、こちらにも――。男の子は嬉しくてたまりません。けれども、街中の大人たちは雪にはまったく関心がない様子です。ささやかな冬の贈り物を目にする胸の高まりは、子どもだけのものなのかもしれません。大人たちはみな自分のことに忙しく、男の子のときめきなど目にも留めませんでした。
 子どもには見えて、大人には見えないもの――この絵本では、それは雪の運び込む楽しさや美しさといえるでしょう。天から与えられる自然の姿を、男の子はワクワクしながら待ちました。子どもはイラスト中の宙にふわりと浮く点にも見える雪を目ざとく見つけ、男の子といっしょに雪のなす業を静かに見守り始めます。
 雪を迎えるだけが、この絵本の喜びではありません。灰色の空の下にたたずむ街、そこにのぞく風景、通行人たちをじっと眺めれば、作品全体につながる人間模様がくっきりと浮かび上がり、遊び心をくすぐる演出があちらこちらに見えてきます。
 「ゆきは ただ はいいろの そらから まいおりるだけ」――重力に逆らわない雪は、人間の力では変えられない自然の存在をそっと物語ります。ひとひらの雪から始まるひとときが子ども心をどんどん躍らせていく過程は、自然に親しむ尊さを伝えます。(asukab)