お気に入りのアート絵本『The Metropolitan Museum of Art』幼児絵本シリーズ

 お気に入りのアート絵本がある。ニューヨークのメトロポリタン美術館の出版するアート作品を題材にした幼児絵本である。最初に手にしたのが『Museum ABC (Metropolitan Museum of Art)』。娘のアルファベット学習はこの絵本から始まったと明言できるほどのお気に入りで、プレスクールにもよく持って行っていた。次が『Museum 123』。そしてこの秋、最新作の『Museum Shapes (Metropolitan Museum of Art)』が出た。趣向はすべて、同美術館所蔵の絵画を用いてそれぞれ文字や数字、形を紹介するというものだ。
 まずは、アルファベット絵本。Aで始まるものは「APPLE」ということで、写実、抽象、印象派古代ギリシャ工芸品といった4つの作品の中からりんごの描かれた部分4枚が収録される。Bは「BOAT」で、ここには広重の描いた船頭の部分など4枚。Cは「CAT」で刺繍、水墨、リトグラフ、油絵作品の4枚。数の絵本は、数を尋ねてから4枚の絵が紹介される。ユニコーン1匹、バレリーナ2人などなど。デザイン化された一部の文字が、小さな子どもには混乱の原因になるかもしれないが。そして今回の「形」。絵の中から形を探し出す遊びほどおもしろいものはない。これこそ名画鑑賞に即結びつく。子どもの目はそうやって視覚を働かせ絵を見るものだから、形の絵本は3冊の中でも1番刺激的なのではないか。
 一枚の絵が人に与える影響は大きい。それは父が教えてくれた。壁に絵を掛け、ソファに座り、絵と対面しながら、まるで悠久の流れに佇むようにいつまでも絵に見入っていた父――。玄関に水をまき、香をたき、花を生け……と、その前に心を清めることも忘れずに。必ずわたしを呼んでくれ、「どう、あっちゃん。いいでしょう、この絵」とお決まりの笑顔で話しかけた。
 絵画鑑賞は、子ども心にも楽しいものだ。線の描かれ方、色の塗られ方、できた形、明暗、遠近……。今から振り返れば、絵の力は体全体に染み入っていたんだと思う。わたしなりの感想を話すと父はとても喜んだので、それが嬉しくて、たくさん絵について話したような気がする。ずらっと揃っていた名画全集も、暇があればよく開いていた。うちには今、あの手の全集がないから、子どもたちにはまともな芸術環境を与えていないことになる……、ちょっぴり落ち込み。
 それほどアートに触れていたのに、じゃあ、どうしてその道に進まなかったのだろうとなるのだが、芸術は時間が真価を試すものなので音楽と同様、厳しい道だよという事実を父は同時に教えてくれた。厳しさを苦と感じない程の情熱が自分にあったかどうかも疑問である。一時的ではなく、永久に続く情熱――それは今でもわからずにいるけれど。
 さて、本シリーズは、アルファベット、数字、形……ときたから、次は「色」と簡単に予想がつく。待つほうも楽しみだけれど、有名どころの美術品の中からそれぞれ対象物を探し出す作り手の作業も、さぞかし楽しいことだろう。巻末には、すべて作品解説が付いている。(asukab)

  • ABC絵本

Museum ABC (Metropolitan Museum of Art)

Museum ABC (Metropolitan Museum of Art)

  • 1〜10まで数の絵本

Museum 123

Museum 123

  • 形の絵本

Museum Shapes (Metropolitan Museum of Art)

Museum Shapes (Metropolitan Museum of Art)