四季の絵本手帖『ゆきとトナカイのうた』

ゆきとトナカイのうた (名作絵本復刊シリーズ)

ゆきとトナカイのうた (名作絵本復刊シリーズ)

 夏の終り、北極圏ラップランドに住むサーメ族は、3日かけて秋のテント村へ旅をします。冬に備えるため、高原に散らばっているトナカイたちを囲いに追い込み、まだ印のついていないトナカイに印を付けるのです。群れの中には、女の子マリット・インガがお誕生日にもらった子どものトナカイ、シロもいるはずでした。作業が終わると、今度は群れを冬の囲いに移動させます。一族も秋のテント村から木でできた冬の家に移り、春が来るまでそこで過ごすのです。
 厳寒地ラップランドの豊かな自然と生活が、美しい水彩画で紹介されるノルウェーの絵本です。お話は5歳の女の子マリット・インガの語りで進むので、子どもはたちまち親近感を抱くでしょう。
 自然と共存するサーメ族の生活には、興味深い光景がたくさん登場します。トナカイの肉のくんせい、内臓を使ってのソーセージ、毛皮の靴作りなど伝統的な暮らしぶりが描かれる一方で、大平原にはジープが走り、雪が降ればスノーモービルが登場するなど、現代に生きる人々の姿も伝えられます。平原を埋め尽くすトナカイの群れ、ばら色のオーロラに染まる大雪原といった雄大な自然の光景には、たとえ絵本であっても心が奪われるでしょう。マリット・インガたちが教会で迎えるクリスマスは民族衣装の赤一色で、礼拝堂の中は素朴な明るさに満ちあふれます。子どもの異文化への理解が一段と深まる大作絵本です。(asukab)