ポロリと涙 台湾の絵本『On My Way to Buy Eggs』

 『On My Way to Buy Eggs』は、こちらではとても高く評価されている絵本。なので、さっそく図書館から借りてくる。読んでみての感想は率直に、「いい!」の一言。その評判に偽りなし。ポロリと涙のこぼれる、繊細で温かくて心の宝物にしたくなる絵本だった。作者はチーユアン・チェン(Chih-Yuan Chen)という台湾の絵本作家。この作品は1997年、台湾の信誼幼児文学奨を受賞した優れた絵本でもあった。米国で良書とされる日本の絵本は何冊もあるけれど、ほとんどが、たとえば安野光雅五味太郎などのイラスト・デザインに優れた絵本であり、絵と文の織り成す総合的な絵本の力を持つ作品って正直なところあまりないんじゃないか。でも、この絵本は違った。
 女の子シャウ・ユーがお父さんから「卵、買ってきてちょうだい」とお使いを頼まれ、お店に向かう。途中、イマジネーションを膨らませながら遊ぶ彼女の姿は、子ども時代へのノスタルジア以外の何ものでもない。影、犬、落ちていたビー玉、めがね、落ち葉踏み、チューインガム……興味の対象は何でも遊びに早変わり。ささやかなことでも空想する力があれば、子どもの心は豊かに満たされるのだ。路地に映る影、ビー玉を覗いて見る世界、かすんだめがねの向こうに見えた街を見れば、懐かしさが何乗にもなってわたしの中に入り込んでくる。
 作者はあとがきで、昔ながらの生活臭が残る都会の路地裏について記している。たとえ都市開発が進んでも裏小路には懐かしい街並みが佇んでいで、自分の作品ではそこに生きる人々の心をいつまでも大切にしたい、と。薄茶と白が基調の切り絵に、鉛筆の線が柔らかさを添えている。路地の風がすうっと感じられ、素直に心が震えた。
 もう一冊、同じ作者の『Guji Guji (ALA Notable Children's Books. Younger Readers (Awards))』の評価も高い。こちらは、3羽のあひるといっしょに育てられたワニ、グジグジのお話だ。ユーモラスで趣のある登場キャラクターたちがなかなかいかす。不思議な画風なんだな。墨の筆を使っているんだけど、着色したところはヨーロッパの絵本のような雰囲気が残る。あひるの兄弟の名前がかわいくて――「クレヨン」「ゼブラ」「ムーンライト」――体の模様といっしょに目を楽しませてもらった。グジグジたちを育てたあひるのお母さんが、とってもすてきに描かれている。
 娘の親友エヴェリンは今年1月、台北に帰ってしまった。彼女もきっとチーユアン・チェンの絵本を楽しんでいるんだろうなあ。わたしは今度は日本語で読んでみたい。また感じ方が違うのだと思う。(asukab)

  • 買い物途中のイマジネーションが美しく懐かしく描かれるお話

On My Way to Buy Eggs

On My Way to Buy Eggs

  • 3羽のあひるといっしょに育てられたワニ、グジグジのお話

Guji Guji (ALA Notable Children's Books. Younger Readers (Awards))

Guji Guji (ALA Notable Children's Books. Younger Readers (Awards))