四季の絵本手帖『雪の写真家ベントレー』

雪の写真家ベントレー

雪の写真家ベントレー

 雪の美しさは、どんなものにも決して負けない――。雪に魅せられた写真家ベントレーの一生をつづる伝記絵本です。
 ウィルソン・ベントレーは1865年、米国バーモント州ジェリコに生まれました。この土地は豪雪地帯として知られ、毎年の降雪量は3メートルにも上ります。ベントレーは小さな頃からいろいろな科学事象に興味を持ちましたが、雪にはもっとも魅せられていました。17歳になったとき、両親が貯めていたお金で顕微鏡付きカメラを買ってくれました。決して裕福でない家庭で、10頭の乳牛よりも高価な買い物は大変な決意がいることだったでしょう。けれども、この行為は彼の人生を決定付けました。それから精力的に雪の結晶を観察し始め、次々とすばらしい発見がなされるのです。「雪なんて、土とおなじで、めずらしくもない」と村の人たちに言われても、ベントレーは「いつか世界中の人が、自分の写真をよろこんでくれる日がくるだろう」と信じて結晶の写真を取り続けました。
 子どもは生まれた環境から影響を受け、自分の特性を表していくものです。ベントレーの場合、「雪」が決定的な要因になりました。彼を見守った家族の存在も忘れてはならないでしょう。両親の愛情に包まれていたからこそ、ベントレーは夢を追えたといえます。ページ端にはときおり、コラムのように時代背景や雪の結晶に関する丁寧な解説が入り、興味はさらに引き立てられます。 
 水彩に着色を施した味わい深い木版画は、冬の温もりとみごとに調和しています。雪を追い続けたひたむきな生き方は、子どもだけでなく、大人の心をも揺さぶることでしょう。ベントレーの真摯な姿勢から、子どもはきっと何かを学び取ります。(asukab)