四季の絵本手帖『大森林の少年』

大森林の少年

大森林の少年

 作者実父の体験を題材に、少年の心の成長と友情を描く絵本です。1918年悪性インフルエンザの大流行が米国ミネソタ州ダルースの町を襲いました。大おばさんが亡くなったと聞き、マーベンの両親は息子に生きのびてもらおうと、彼を町から離れた北部の木材伐採場に送る決意をします。10歳の男の子が一人で働きながら生活できるのか親戚の人たちは心配しましたが、父親はすでに友人に相談し、息子を帳簿係として伐採場で働かせる手はずをつけていました。
 たくさんの死者を出した疫病は当時、さまざまな形で人々の生活に影響を与えました。もし、自分が同じ状況にいたら……と、大人も子どもも両親やマーベンの気持ちに思いを重ねることでしょう。彼らの心情は厚みのある色合いのイラストとともに深く語られ、読むものの心を揺さぶります。家族と離れ離れになること、誰も知らない土地に行くこと、何が待ち受けているかわからないこと――町に残る家族の安否さえ保証はされません――、マーベンを襲ったそんな不安を、子どもはいっしょに感じ取ります。
 家族を恋しがりながらも、伐採場での新しい生活に楽しみを見つけていく過程は活力にあふれる場面です。中でもカナダ人の大男ジャン・ルイとの友情は、雪深い森での暮らしに明るさを与えてくれます。家族と離れて暮らしたマーベンの成長は、さわやかな読後感とともにいつまでも子どもの記憶にとどまることでしょう。(asukab)